こんにちは。先日は、●浅草文化観光センターに『靴の図書館』展を見てきました。そのあと、トークショーがありまして、大谷知子さんが『百靴事典(ひゃっかじてん)』(大谷知子編著、全日本革靴工業協同組合連合会発行、2022年)を執筆されたエピソードを聞いてきました。

2004年に刊行されました旧版『百靴事典』からは、いろいろとバージョンアップされているのですが、僕が興味があるのは、やっぱり歴史とか生産の背景について。
ざっと、読んでみて面白いのは、世界の靴製造に関する土地と国が挙げられていました。このあたり、長年海外取材をされてきた大谷さんならでは。詳しくは、この事典を手に入れていただくとして、簡単に抜粋してみたいと思います。
【挙げられている地名】
・浅草(日本台東区) 幕末に弾左衛門に江戸幕府が任せ、革鞣しをこの地で行った。現在でも様々な靴関連産業が活動しています
・入船町(日本中央区) 靴産業発祥の地。この地がわからなくなっていたが、長年の研究により稲川実氏が特定した。西村勝三が伊勢勝造靴場を開き、日本製靴(現REGAL)もこの場所にあった
・神戸 「履きだおれの神戸」と言われる。婦人服は東灘区住吉、生産量が多いのは長田区。鈴木幸次によるSPIGOLA(スピーゴラ)もここにある。
・ジャーミン・ストリート(Jermyn Street) ロンドンのセント・ジェームス地区にある通り。名だたる名門ショップがならぶ。
・ストラ(Stra) イタリア・ヴェニス近郊に位置し、名だたるラグジュアリーブランドの靴が製造される
・奈良 大和高田市を中心に靴産業が集まる。オリエンタルシューズは奈良県大和郡山市にある。
・ノーザンプトン(Northampton) ロンドンから北に列車で1時間ほどにある都市。17世紀にクロムウェルがこの地の靴メーカーに軍靴を発注したことによる。
・八幡靴 滋賀県近江八幡市にあるマッケイ製法の紳士靴。大正時代には軍靴をロシアに輸出した。
・ピルマーゼンス(Pirmasens) ドイツ南西部の都市。フランス国境に10キロ程度と近く、1960年代にはドイツ製靴の50%を占めた
・リン(Lynn) マサチューセッツ州の都市。かつてピルグリムファーザーズが1620年に入植。その後革鞣しと靴製造の中心地となり1775年の独立戦争でも独立軍にブーツを供給した。オールデンもこの近郊。20世紀初頭には234の靴工場があり、1日に100万足以上を生産した。
(*勉強不足ですが、ワタシこのリンについて、大谷さんに質問してしまいました…。よくブロックトンとかミドルボロとかいう地名は聞くのですが、かつて世界の靴の首都とよばれたリンについては初めて。以下の通り、ボストンより北にありますね)


・ロマン(Romans) フランスの代表的な靴生産地。フランス東南部のリヨンとマルセイユの中間値にあり、シャルル・ジョルダンCharles Jourdanなどが有名。
【挙げられている国名】
・イギリス 2019年の生産量は500万足。ロンドンには世界的なメーカーがあり、ノーザンプトンは靴産業の聖地として知られる
・イタリア 2019年の生産量は1億7900万足。大小様々なメーカーがある。1980年代には、5億足を超えていた。
・インド 2019年の生産量は26億足で世界第2位。輸出先はアメリカ、イギリス、ドイツがベスト3。
・スペイン 2019年の靴生産量は9800万足でヨーロッパではイタリアに次ぐ2位。グッドイヤー・ウェルトが多い。産地はバレンシア州のエルダ、エルチェなど。
・中国 2019年の靴生産量は134億7500万足。中心地は広東省の深圳から東莞、徐々に北へと広がっている
・ドイツ 2019年の靴生産量は4800万足。健康を考慮した成形靴が有名。
・ブラジル 2019年の靴生産量9億800万足。世界第5位。
・ベトナム 2019年の靴生産量14億足。世界第3位。ナイキなどもありますよね。
・ポルトガル 2019年の靴生産量は7600万足。ヨーロッパ第3位。ポルトを中心にOEMの基地。
・メキシコ 2019年の靴生産量2億5100万足。中南米ではブラジルに次いで第2位。
当然ながら、靴の生産拠点というのは、中国、インド、ヴェトナム、ブラジルが突出していますね。これは、スニーカーがおそらく多いので、本革シューズだとイタリアあたりが多いのでしょうか。(絶対数が、中国、インドなどは多いので、生産数は多いでしょうね)
大谷さんは、グローバルな視点で靴市場の行方を見ている。そうすると、本格靴の作り手国とは違って風景が見えてきますね。ビスポークシューズ分野では、日本人が凄腕職人が増えているんですが、あまりにもマーケット規模が違うので、複雑な気持ちになります。
ただ、当然ながら中国やインドでも高品質のシューズは作られているでしょうし、これからどういう新しいシューズが生まれてくるか、楽しみですね!(妙に前向き)
- 関連記事
-
-
●靴の首都リンLynnの歴史
-
●『百靴事典』が面白い
-
●ISETAN 靴博 2022を偵察
-
スポンサーサイト